• 2025年3月12日

認知症の診断と治療:抗体薬のもたらすもの

アルツハイマー病の病理学的な特徴は、大脳皮質や海馬の神経細胞の脱落と細胞外に沈着するアミロイドβ(老人斑)です。このアミロイドβが脳に沈着することがアルツハイマー病の最も重要な原因と考えられています。アミロイドβは、20年以上の歳月をかけてゆっくりと沈着し(プレクリニカル期)、一定量を超えた時に認知症を発症します。このアミロイドβを取り除くことができる治療薬(抗体薬)が開発され、最近使用できるようになりました。認知症の経口薬が最後に認可されてから10年以上新薬はありませんでした。抗体薬であるレカネマブが突破口となりました。

もう一つの病理学的特徴は、細胞内に蓄積する神経原線維変化です。微小管結合蛋白の一つのタウ蛋白が過剰にリン酸化され、微小管との結合が消失し神経原線維変化を形成します。凝集したリン酸化タウ蛋白は神経毒性を示し神経細胞の脱落に関与します。このリン酸化タウに対する抗体薬も開発され、いくつもの治験が始まっています。

抗体薬が医薬品の中で重要な存在となってきているのを感じます。現在使用できるアミロイドβ抗体薬(レカネマブとドナネマブ)は最適使用推進ガイドラインに沿って行いますが、使用するための条件として、アミロイドPETまたは髄液検査でアミロイドβの沈着を確認することになっています。これまでのアルツハイマー病の診断は主に臨床症状からなされてきましたが、これらの薬剤の出現によって、分子イメージングやバイオマーカーを用いる診断へと一歩進みました。発熱と風邪症状の患者さんを抗原検査でインフルエンザと診断するように、アルツハイマー病が診断できるのです。バイオマーカーの検出は血液でも遜色のないという報告が多数でています。日常臨床で血液を用いて診断する日もそう遠くないように思えます。発症する前のプレクリニカル期に、認知症リスクを採血で予想し、予防治療を行う時代がもうそこまで来ています。

(町田市医師会ホームページ 「身近な医療情報」2025年2月に掲載)

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