• 2026年2月6日

患者さんにとっても医師にとっても手ごわい相手:水痘・帯状疱疹ウイルス Varicella Zoster Virus (VZV) 頭頚部・顔面を中心に

帯状疱疹は厄介な病気です。

水痘・帯状疱疹ウイルスは、子供のころ水疱瘡(みずぼうそう)としてかかったあと全身の神経節に入り込み潜みます(潜伏感染)。年をとって免疫力が下がった時などにひとつの神経節(左右どちらか)から神経に添って逆行してひどい痛みを伴う帯状の皮疹として現れます。50歳から発症率が高くなり、80歳までに3人に1人が経験すると言われています。まれに若く健康な方にもおこります。後遺症として神経の損傷による神経痛が残ることがあります。再発も、多くは他の場所に1-6%で起こります。帯状疱疹予防のワクチンは、すでに抗体を持つ(不顕性を含め水痘にかかった)成人に対しブースター効果をもたらします。自治体によっては補助が受けられます。

私はこれまでVZVに医師として悩まされてきました。比較的多い疾患であり、多彩な症状を呈し後遺症を残しかねないこの感染症は、多くのプライマリケア医にとって手ごわい相手ではないかと思います。

※初期症状(皮疹がでるまで)

当院は神経疾患を診るクリニックのため、典型的な皮疹が出る前の痛み・しびれの症状で来院されます。後頚部・顔面の神経痛様のズキっとする神経痛様の痛みや、ぴりぴりするしびれや痛みが初発症状です。三叉神経ニューロパチー、三叉神経痛、後頭神経痛、一次性穿刺様頭痛、貨幣状頭痛などの診断名がつきます。軽度の発熱やリンパ節の腫脹などは帯状疱疹を強く疑う所見です。それぞれの治療方法を示すとともに、後遺症を残さないためには抗ウイルス薬の早めの投与が必要であるため「皮疹がでればすぐに来院するように」と言って帰ってもらうことになります。初発症状から皮疹までは4日から1週間とされています。

体部の帯状疱疹と同様、初発症状の部位と皮疹とは必ずしも一致しません。後頭神経痛様の痛みで額に皮疹が出た患者さんを何人か診ています。

※皮膚症状・疼痛管理・眼症状

頭部(顔面)の皮膚症状は、正中を越えず片側の三叉神経の支配領域に現れます。はじめは赤い皮疹(紅斑)がでてその後水泡となります。2~4週間で水泡が破れて痂疲化し皮膚症状はおさまります。皮膚病変にはウイルスが存在し、水痘に比較すればリスクは低いですが、初期感染を引き起こします。第1枝(額、鼻の脇)に現れることが最も多く、皮膚症状があれば診断は難しくはありません。抗ウイルス薬の早期投与と疼痛のコントロールが重要です。皮膚症状がでてから5日(できれば72時間)以内に治療を開始することでウイルスの増殖を防ぎ、神経の損傷を最小限とします。そうでない場合、後遺症として神経痛に悩まされることになりかねません。急性期の痛みの管理には、通常の鎮痛薬、神経障害性疼痛の薬、非オピオイド鎮痛薬などを使用して管理します。ガイドラインでは神経ブロックが推奨されています。皮膚病変には2次感染予防などのために抗生物質入り軟膏を使用しています。

眼に感染すると重篤になりかねないため要注意です。眼に近い皮疹がある場合(三叉神経第1枝)には、経口の抗ウイルス薬に加え、アシクロビル眼軟膏を使用します。

※ハント症候群と多発性神経炎

ハント症候群(Ramsay Hunt Syndrome)は多くの場合、片側の顔面神経麻痺(顔の動きが悪くなる)を主症状とし、耳介の帯状疱疹・聴神経症状を伴います。単純ヘルペスウイルス(HSV)による末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)とは随伴する症状の有無で鑑別します。抗ウイルス薬の量と投与期間が異なるため鑑別は必須です。しかし、3主徴(顔面神経麻痺・耳の皮疹・聴力障害)がそろうのは58%とされるため厄介です。そのうえ、ハント症候群は顔面の帯状疱疹(三叉神経)にも合併し、後頭神経、舌咽神経、迷走神経の症状を呈する多発神経炎を示す症例もあるためさらに厄介です。早く治療することが回復率を高めるとされています(3日以内では70%以上ですが、7日以降では30%以下)。

顔面神経は運動枝以外に中間神経という感覚枝があり、舌の前2/3の味覚、涙腺・唾液腺、外耳道周囲の知覚を司っています。このために耳周辺の痛みや皮疹として症状が現れます。また、味覚異常や涙の異常を示すこともあります。ベル麻痺でもこれらの症状を伴うことがありますが、皮疹や激しい痛みは現れません。顔面神経の運動枝の枝にアブミ骨神経があり、この障害により音が大きく聞こえることがあります(聴覚過敏)。

外耳周囲の神経支配は複雑で、中間神経以外にも、三叉神経、舌咽神経、迷走神経、後頭神経などが関係しているとされています。そのため、診断的価値は低いと言えます。

聴神経(第8脳神経)は蝸牛神経と前庭神経からなりたっています。聴力障害、耳鳴以外にも眼振を伴うめまいやふらつきも起こす可能性があります。

舌咽神経は喉の知覚、舌の後ろ1/3の味覚、耳下腺分泌、嚥下に関係します。咽頭の発赤やびらん、疱疹、知覚障害が現れます。

迷走神経は主に運動神経で、反回神経として声帯を動かし、嚥下を司ります。嚥下障害や声帯麻痺などをきたすこともあるようです。

※無疹性帯状疱疹

さらに厄介なのは皮疹や発疹を伴わない例があるとされることです(zoster sine herpete)。原因のはっきりしない頭頚部・顔面のしびれや痛みがVZVに起因する可能性があるというのです。今でもVZVに対する血液中IgG IgMを測定することで診断できることがあるかも知れません。しかし、たとえ診断がついたとしても、抗ウイルス剤を使用すべき時期は過ぎていることが多いのではないかと考えます。原因のはっきりしない痛みとこのウイルスの関係について明らかになる日がそのうち来るかも知れません。

帯状疱疹診療ガイドライン 2025 日本皮膚科学会ガイドライン

Zhou J, Li J, Ma L, Cao S. Zoster sine herpete: a review. Korean J Pain. 2020 Jul 1;33(3):208-215. doi: 10.3344/kjp.2020.33.3.208. PMID: 32606265; PMCID: PMC7336347.

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