• 2025年11月10日

チャンピックス(バレニクリン)が使用できるようになりました:ニコチン嗜癖と治療薬の機序

アセチルコリンはヒトの重要な神経伝達物質ですが、その受容体には、ニコチン性とムスカリン性の2つがあり、前者は、骨格筋の収縮、自律神経、脳機能(中枢神経系)の調節に重要な役割を果たしています。ニコチン性アセチルコリン受容体にはいくつものサブタイプがあり、タバコの主成分であるニコチンが直接働くのは、中脳辺縁系報酬回路の腹側被蓋野(VTA)のドーパミン神経細胞上のα4β2ニコチン受容体です。ここに結合することによって近くの側坐核からドーパミンの遊離を引き起こします。その他、GABA介在神経細胞やグルタミン酸神経細胞を介する系も関与すると考えられています。

側坐核から遊離された大量のドーパミンは、ヒトに快感・満足感をもたらします。これが繰り返されることによって、吸わないと落ち着かない依存の状態を作ります。

ニコチン受容体では、ニコチンによってチャネルが開口しドーパミンが遊離しますが、一定時間経つと(喫煙が終わるころには)働かなくなり、それ以上吸ってもドーパミンは遊離されなくなります(脱感作)。その後、ニコチン受容体はだんだんともとの状態に戻り、そのころにはドーパミン遊離がないために渇望が顕著となります(渇望は反復摂取の1ヶ月以内にはじまります)。ニコチンガムや経皮パッチは一定のニコチン量を保つため、ある程度のニコチン受容体を働かなくさせる作用(脱感作)があると考えられています。

チャンピックスは選択的α4β2ニコチン受容体部分アゴニスト(nicotinic partial agonist (NPA))です。この薬剤は、ニコチン受容体を働かなくさせること(脱感作)はなく、ニコチンそのものほど頻回にはチャネルを開口させず、かといって完全に閉じてしまうこともないという中間の状態に安定させます。そのために、①ドーパミンが少量放出され、禁煙に伴う「イライラ」「落ち着かない」などの離脱症状はなく、タバコへの渇望を軽減します。さらに、②タバコを吸ってもドーパミンがこれまでのように遊離されないため、十分な快感が得られなくなり喫煙を続ける意欲が薄れます。

チャンピックスの使用方法は、1週目に用量を段階的に増やし、8日目以降は1mg錠を1日2回、朝夕食後に服用します。服用開始は禁煙開始日の1週間前からで、12週間かけて服用を続けます。吐き気などの副作用を抑えるために、必ず食後に服用してください。

ストール 精神薬理学エセンシャルズ 第5版

AI利用

いぶきとらのお(北岳 8月)

脳神経まちだクリニック 042-732-6077 ホームページ