- 2025年3月28日
片頭痛の運動療法:どのような運動をどの程度行えばよいのか?最新の研究から
当院の頭痛外来では、薬物治療を行うとともに、生活習慣の改善を促しています。頭痛が頻回に起こる方には、睡眠障害、ストレス、偏った食事、運動不足など、生活習慣上の問題がある方を多く見受けます。このなかで、本人の努力で改善が見込め、頭痛予防の効果が大きいものとして運動があります。運動は頭痛ばかりでなく、多くの疾患の予防にもつながりますので、当院では、積極的に運動を勧めています。
ここでは、たくさんある頭痛と運動に関する論文のなかから、アメリカから2022年にでた研究論文「有酸素運動と筋肉トレーニングは片頭痛の治療に有効か?過去の臨床治験の総論とネットワークメタ解析」をご紹介したいと思います。
運動が片頭痛に有効であることは、幾多の臨床試験で実証されてきましたが、著者らは運動の方法が比較されたことがないことに注目しました。頭痛と運動の関係を検討した臨床研究を検索・収集して、ネットワークメタ解析を行いました。論文の収集はWeb of Science、PubMed、Scopusなどのサーチエンジンを用いて行い、7577の論文の中から解析に適した21の臨床研究を抽出し、1195人(平均35歳 女性/男性=6.7)を解析しました。筋肉(ストレングス)トレーニング、中等度及び高強度の有酸素運動を比較しました。8割の研究では12週あるいは8週の期間に、約50分の運動を週3回行っていました。筋肉(ストレングス)トレーニングにはシーテッドロー、ベンチプレス、ダンベルカール、ラットプルダウンなどが用いられていました。高強度及び中強度の有酸素運動にはランニング、トレッドミル、縄跳び、エアロバイクなどでした。ネットワークメタ解析の結果、最も有効であったのは、筋肉(ストレングス)トレーニングで、月に3.55回頭痛の頻度を減少させました。高強度及び中強度の有酸素運動は、それぞれ3.13回、2.18回減らしました。
すべての運動は、高い治療効果を示していましたが、筋力トレーニングが優位であった理由として、特に首、肩、上肢の主要な筋肉を含んでいたためとしています。これらの筋肉からの刺激が中枢に伝わり、構造的に近くにある頭の三叉神経(片頭痛の原因)に抑制的に働いた可能性があります。また、筋肉量の増加/維持が、慢性疼痛症候群における中枢感作の軽減に関係しているためとも考えられます。一方、有酸素運動に関しては、痛みを軽減させる内因性分子(オピオイド系と内因性カンナビノイド系)が運動によって脳内に増加するためではないかと考えられています。また、運動による心肺機能の改善、抗炎症作用による可能性があります。
体を動かすことによって片頭痛が誘発される場合があることはよく知られています。この際も、運動を継続することは頭痛の軽減に有効です。調子の良い日には行き過ぎず、調子の悪い日には過度の休息を避けることが有用と考えられています。
今回のメタアナリシスで示された50分週3回の運動は、WHOの身体活動ガイドラインhttps://www.who.int/publications/i/item/9789240015128 にも一致しています。このガイドラインでは、成人において、長時間座りっぱなしになることを避け、中強度の有酸素運動を週150~300分、または、高強度の有酸素運動を75~150分、または筋力トレーニングを週2回以上行うことを推奨しています。定期的な運動は片頭痛発作を減らすのに役立つだけでなく、肥満、うつ病、不眠症などの他の併存疾患のコントロールにも有効です。
運動習慣のない方は、30分週2回早足で歩くことから始めましょう。
(わかりやすく意訳したところがあります)
Woldeamanuel YW, Oliveira ABD. What is the efficacy of aerobic exercise versus strength training in the treatment of migraine? A systematic review and network meta-analysis of clinical trials. J Headache Pain. 2022 Oct 13;23(1):134. doi: 10.1186/s10194-022-01503-y. PMID: 36229774; PMCID: PMC9563744.

みつまた(大山 3月)