• 2024年7月19日
  • 2024年8月11日

アルツハイマー型認知症治療薬について

厚生労働省HPより

AChE阻害薬

脳内にある神経細胞のシナプス間の情報は、アセチルコリン、ドパミン、セロトニン、ノルエピネフリン、グルタミン酸、GABAなどの神経伝達物質によって伝えられます(セロトニンに関しては2024/4/2のブログを参照)。アセチルコリンは、末梢神経での作用(副交感神経や運動神経)はよく知られています。脳内で重要なものとしては、前脳基底部に神経細胞群を有し(マイネルト基底核が代表)、大脳皮質や海馬に投射するアセチルコリン作動性神経経路があります。アルツハイマー型認知症では、記憶の固定や認知機能に関係するこのアセチルコリン作動性神経経路が十分に機能していません。アセチルコリンはコリンアセチルトランスフェラーゼによって合成され、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)で分解されます。AChE阻害薬は,アセチルコリンの分解を抑制しシナプス間隙のアセチルコリン濃度を上昇させる作用があり,これによりアセチルコリン神経系の伝達を促進し認知症症状を改善すると考えられています。現在、日本で使用できるものは3種類あります。ドネペジルは軽症から重症まで使用でき、半減期が長いことから1日1回の使用です。不安,抑鬱,アパシーに有効とされますが、攻撃性,不眠が現れる事があります。ガンタラミンは混合性認知症にも有効とされています。リバスチグミンはパッチ剤のみで、多くの薬剤の代謝に関係するCYPを介さず肝エステラーゼによるため他剤併用時に安心して使用できます。パッチ剤であるため皮膚症状がでることがあります。

NMDA受容体拮抗薬

もう一つ注目された神経伝達物質はグルタミン酸です。グルタミン酸は主に興奮性の神経伝達物質として働きます。その受け手の受容体にはいくつかありますが、そのなかでもNMDA受容体は、グルタミン酸が結合することで、神経細胞内にカルシウムを流入させ、次の神経を興奮させて記憶や学習に働くとされています。アルツハイマー型認知症では、グルタミン酸が過剰に放出されることで、カルシウムが神経細胞内に過剰に入り込み、神経細胞を傷害させると考えられています。メマンチンは過剰なNMDA受容体の刺激を抑えることで神経細胞死や記憶・学習効果の低下を改善する効果があります。AChE阻害剤と作用機序が異なることから併用が可能で、特にBPSD(行動・心理症状)のひとつである攻撃性に有効とされています。

薬剤ドネペジルガンタラミンリバスチグミンメマンチン
製品名アリセプトレミニールリバスタッチメマリー
作用機序AChE阻害AChE阻害/APL作用AChE阻害/BuChE阻害NMDA受容体拮抗
適用軽度~重度軽度~中等度軽度~中等度中等~重度
用量3~10mg8~24mg4.5~18mg5~20mg
用法1日1回 経口・パッチ剤(27.5mg)1日2回1日1回 パッチ剤1日1回
半減期(時間)70~805~73.460~80
最高濃度到達(時間)3~50.5~181~7

レカネマブ

ドネペジルが使用できるようになって20年以上、その他の薬剤も10年以上たちます。認知症の新薬は絶望視されていましたが、2023年暮れに待望の画期的な薬剤が登場しました。アルツハイマー型認知症の病因は、アミロイドβとタウという二つの不溶性蛋白が脳内に蓄積し、神経細胞が障害されることです。アミロイドβ の凝集過程では、様々なアミロイドβ の凝集体(オリゴマー・フィブリル)が形成され、さらに集合してアミロイドβ プラークを形成します。最も毒性が高いと考えられたプロトフィブリル(凝集して形成される線維の前段階)に選択的に結合して脳内から除去するのを目的にしたのが抗アミロイドβプロトフィブリル抗体、レカネマブです。大規模グローバル臨床第Ⅲ相検証試験で、主要評価項目ならびに全ての重要な副次評価項目が統計学的に有意な結果を示し、レカネマブはアルツハイマー型による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行を抑制することが検証されました(2024/1/22のブログを参照)。

ドナネマブ

レカネマブに続く抗アミロイドβ抗体薬です。アメリカFDAの承認を得て、現在厚生労働省に申請中の薬です。脳に沈着してからしばらく時間が経ったアミロイド斑に選択的に結合して、脳内から取り除く作用があります。4週に1回の点滴を18か月継続します。アミロイド斑は18か月より早く除去される症例もあることが報告されています。

いわおうぎ(北岳山頂付近 8月)

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