• 2025年7月7日

片頭痛の予防薬:内服薬と注射薬

片頭痛の治療薬は2つに分けられます:頓挫薬と予防薬。片頭痛がおこってしまった場合には頓挫薬(急性期治療薬)を使用します。片頭痛の特効薬であるトリプタンとそのほかの鎮痛剤、制吐剤があります。

片頭痛の予防療法は、生活に支障があるような頭痛が月に3~4回以上ある場合に勧められます。その目的は、頭痛頻度の減少、痛みの軽減、薬の反応の改善、そして生活支障度の改善にあります。このような患者さんは頓挫薬を飲みすぎることよって頭痛の回数が多くなっていることも考えられます(薬物の使用過多による頭痛、薬物乱用頭痛)。予防療法を行って、頭痛を減らし、頓挫薬を減らします。

頭痛が減っている時に、睡眠時間の確保、食事の改善、定期的な運動など、生活習慣の改善を試みます。健康的な生活習慣を送ることが最も大切です。

予防薬には、内服薬と注射薬があります。

内服薬

下記にエビデンスレベルの高い飲み薬を記します。作用機序は異なるのに有効であるのは不思議です。ひとによって効果のあるものやないものがあります。効果があれば、3か月くらい使用し、片頭痛のコントロールが良好であれば、減量・中止します。いずれも小児にも使用可能です。

薬剤作用機序使用量(1日)注意点
バルプロ酸 (デパケン)抗てんかん薬400~600mg妊娠中催奇形性
トピラマート(トピナ)抗てんかん薬50~200mg保険適応外
アミトリプチリン (トリプタノール)抗うつ剤5~25mg 
プロプラノロール(インデラル)β遮断薬(高血圧・冠動脈疾患・頻脈性不整脈に使用)20mg~60mgリザトリプタン(マクサルト)と併用できない・喘息には禁忌・妊娠中禁忌ではない
ロメリジン(ミグシス)Ca拮抗薬(高血圧・冠動脈疾患)10mg効果は他の薬剤より若干劣る

その他、高血圧やうつの共存症がある場合、それらをコントロールすることで頭痛が改善する場合があります。

注射薬(皮下注射)

カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide: CGRP)は、37個のアミノ酸から構成されるペプチドで、小型~中型の三叉神経節ニューロンや後根神経節ニューロンに局在しています。片頭痛患者の頸静脈における血中CGRP濃度が発作時に有意

に高値であることなどが明らかになっています。片頭痛時、CGRPが硬膜(脳を包む組織)で過剰に放出されることにより、血管拡張作用、血漿蛋白の漏出、肥満細胞の脱顆粒により三叉神経血管系に神経原性炎症が惹起され、疼痛シグナルが中枢へ伝達して大脳皮質で痛みとして知覚されると考えられています。

注射薬は、このCGRPの抗体です。抗体薬は総じて副作用は少なめで、有効率が高いのが特徴です。全く頭痛がなくなり、「びっくりした」と言われる方もおられます。下記に現在日本で使用可能な注射薬を記します。半減期(血中濃度が半分になるまでの日数)はおよそ1か月です。使用方法はそれぞれ少しずつ異なります。抗体薬ですので、高価であるのが難点です。薬価は4万円代のため3割負担で1本1万円以上かかります。

なお、妊娠中、授乳中は十分なデータがないため使用は勧められていませんが、授乳中は問題ないと考えられています。注射薬は3か月を目安に効果判定を行い、原則6~12か月使用します。

薬剤製剤分類製薬メーカー使用方法
エレヌマブ 70mg (アイモビーグ)ヒト抗CGRP受容体モノクローナル抗体第一三共・イーライリリー4週間ごとに1本注射 15歳以上は使用不可ではない
フレマネズマブ 225mg (アジョビ)ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤大塚製薬4週間ごとに1本注射または12週間ごとに3本注射
ガルカネズマブ120mg (エムガルティ)ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤アムジェン初回2本注射その後毎月1本注射

希望されれば、在宅での注射も可能です(原則一度に3本までの処方)。

頭痛の診療ガイドライン 2021 医学書院

日本頭痛学会HP

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